教育系ライター「たなかくん」です。
教育業界の仕事に興味を持たれている方の中には「学校教師と塾講師の違い」について興味を持たれている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
一緒の仕事だと思うけれど…。
確かに一見すると「生徒に対して授業を行う」という共通点があるように感じますが、実際のところ両者の教育的アプローチは本質的に異なっていると考えています。
そこで今回は「学校教師と塾講師の違いについて『教育者の役割』を軸に考察してみた」という題目のもと、教育業界で働いてみたいと考えている方に両者の教育的アプローチの違いについて知っていただくと共に、あわせて「どのような人にどのような物事を教えたいか」という自分なりの教育観を形成していただく一助となれば嬉しく思います。
Contents
両者には様々な違いがある
さて、本題に入る前に少し別の視点から両者の違いについて考えてみましょう。
様々な違いがあります!
先ほどの「教育者の役割」の他にも、両者を細かく見ていきますと、公教育である学校教師と民間教育である塾講師には、次のような様々な違いがあると考えています。
- 資格の違い
- 給与の違い
- 生活サイクルの違い
それぞれの違いについて見ていきましょう。
資格の違いについて
まずは資格の違いについてです。
公立私立を問わず公教育である学校教師として働いていくためには、教育学部といった教師になるために必要な教職課程を修了し教員免許状を取得する必要があります。
一方で、民間教育である塾講師として働く場合、基本的に教員免許状が必要とされることはありませんが、念のため転職活動の際は応募資格の確認をおすすめします。
ただ塾講師として働く場合「志望校合格に向けた教育サービス」を提供するという性質上、教員免許状の有無よりも学歴やキャリアを重視される傾向にあると考えています。
給与の違いについて
次に給与の違いについてです。
しばしば「学校教師は安定した職業である」という言葉を耳にしますが、確かに公立学校の教師は勤続年数に応じた年功序列制度により安定した収入を得ることができます。
それに対して、塾講師の場合ですと各企業によって収入面は大きく異なってきます。
その例として「コマ給」制度がありますが、これは正社員に支払われる基本給とは異なり、塾講師の1回の授業(1コマ)に応じて支払われる給与システムとなります。
なので大手予備校といった人気講師になれば、その「コマ給」も上昇し収入を増やしていくこともできますが、一方で、塾講師の業務内容は授業以外にも授業準備や生徒対応といった業務もあるため「コマ給」以外の福利厚生に注意する必要があるでしょう。
生活サイクルの違い
最後に生活サイクルの違いについてです。
学校教師の場合、常勤講師や非常勤講師といった雇用形態によって生活サイクルは異なってくるものの、基本的に朝8時頃から夕方5時頃までの朝型のサイクルになります。
ただし、上記の時間はあくまでも所定の労働時間となっているため、実際には朝7時半までに出勤し、夕方も事務作業に追われるため夜8時頃の退勤が基本となるでしょう。
塾講師の場合ですが、雇用形態や教育サービスに応じて生活サイクルは異なります。
一例として、既卒生を対象とする予備校の場合、午前中からの授業が基本となるため、朝型の生活サイクルになりますが、中学生や高校生を対象とする学習塾の場合、夕方以降の授業が基本となるため、生活サイクルも夜型になりやすいと考えています。
学校教師の役割とは
さて、ここまで「学校教師と塾講師の様々な違い」について見てきました。
ここからが本題です。
みなさんは「学校教師の役割」をどのようなものと考えているでしょうか。
個人的な価値観になりますが、筆者は「学校教師の役割」を次のように捉えています。
「育てたい子ども像」に向けて作成された教育課程を一律に教える役割
端的に表すと上記のような表現になりますが、これは次の知識を基に考えています。
- 教育基本法
- 学習指導要領
少し専門的な内容となりますので、個別にご紹介させていただきます。
教育基本法について
公教育の理念を表した教育基本法。
そのような法律の中で第1条と第5条が上記の役割を考えるきっかけとなっています。
もし、教育業界の転職で教員採用試験も受験してみようと考えている方がいらっしゃれば、各条文について見ていく必要がありますが、ここでは次の内容が重要となります。
教育は各個人の有する能力を伸ばしつつ、社会を自立的に生きていくために必要な知識や技能を養い、国や社会の形成者として必要な知識や技能を学んでいくために行われる。
この内容だけを見てみると難しく感じてしまいますが、言い換えると、既に法律で学ぶべき内容が定められている、さらには既に法律で「育てたい子ども像」が決まっており、そこに向かって学校教師が授業を行うという役割があるのではないかと考えています。
ただ、これだけの内容では「育てたい子ども像」に向かってどのような内容を教えればいいのか分からないため、実際に学校教師が教えなければならない項目について詳しく記されている学習指導要領という資料について見ていきたいと思います。
学習指導要領について
端的に表しますと、学習指導要領とは次のような資料となります。
学習指導要領とは学校の教育課程の基準として定められているもの
学習指導要領と同様に教育課程も専門的な言葉となり難しく感じますが、そもそも教育課程とはカリキュラムという訳であり、子どもたちの発達段階に即しながら子どもたちの成長に必要な項目を、体系的に整理した指導計画のことを示しています。
また教育課程は各学校の状況にも対応しながら作成していきますが、注意すべき点として、学習指導要領の内容にも留意しながら作成していく必要があります。
例えば、海辺の学校と言えども漁業のみに焦点を当てた教育はできませんし、同様に山辺の学校と言えども林業のみに焦点を当てた教育はできないということです。
この知識を基に考えてみると
以上、教育基本法と学習指導要領について見てきました。
改めて「学校教師の役割」ですが、次のように考えています。
「育てたい子ども像」に向けて作成された教育課程を一律に教える役割
「『育てたい子ども像』に向けて作成された教育課程」という文言ですが、こちらは先ほどまでの教育基本法や学習指導要領が基になっており、これらの資料よって定められた内容を学校教師が教えていくことから、このような表現になっています。
これらの資料があるから!
また後半の文言である「一律に教える」についてですが、こちらは公教育が学習塾のような個別型の形式ではなく、1つの教室に30人の子どもたちが在籍する集団型の形式であることから、このような表現となっています。
重要視されています!
近年、教育業界ではインクルーシブ教育というキーワードが注目されていますが、こちらは発達に課題を抱えている子どもたちが将来、自分の夢や目標に向かって活躍できるよう個人の特徴にスポットを当てながら個別に支援していく教育となります。
このように現在の教育現場では個人に焦点を当てた教育活動も増加していますが、まだまだ学校現場では、約30人程度の子どもたちを一斉に指導する集団型の教育が中心となって提供されていることから、学校教師の役割は上記のようになると感じています。
塾講師の役割とは
では、次に「塾講師の役割」について見てきましょう。
こちらも端的に表すと次の通りになります。
子どもたち一人ひとりの個性に応じた、夢や目標のサポートをする役割
この役割を考えるようになったきっかけですが、こちらは民間教育である塾講師での経験や就職活動で得た民間教育に関する知識が基となっています。
ですが、この中でも特に次の失敗談が上記の役割を考える重要な要素となっています。
寄り添えなかった失敗談
みなさんは「習熟度」という言葉をご存知でしょうか。
どれだけ理解しているか
という意味になるね!
教育学では「子ども理解」という言葉がありますが、この言葉のように、子どもたちを指導していくにあたり、まずは子どもたちの様子を把握することが重要となります。
ただ、僕が塾講師として働き始めてすぐに、この習熟度で次の失敗を経験しました。
Aくん
学年は中学1年生で、受講していた科目は数学のみ。
数学が苦手で学校の分からないところを復習したくて塾に来ていた。
あらかじめ、こうした情報を的確に把握することができれば、おそらくAくんとの接し方も違ったものになっていたと思いますが、塾のシステム上、1人の講師につき数人の生徒を担当することになっていたので、同じく、中学1年生で数学を受講していた生徒と全く同じ形式で授業を進めてしまいました。
しかし、当然のことながら両者の間には学力差があり、一方はスラスラと問題を解いていくのに対して、もう一方は手が止まったままといった状況になっていました。
習熟度に応じた授業をしないとダメだった。
この失敗から、まずは子どもたちの個性を丁寧に読み取っていくことが重要であると感じ、そこで心理学で学んだ傾聴・共感の姿勢を意識しながら授業に臨んでみました。
その結果として、子どもたちの習熟度に応じた授業を提供できるようになり、志望校合格に結びつくなど、この失敗は僕にとって忘れられない記憶として残っています。
塾講師は生徒のサポーター
話を戻しますが「塾講師の役割」は以下の2つのキーワードから構成されています。
- 一人ひとりの個性に応じた
- 夢や目標の実現をサポートする
先ほどの失敗談で取り上げました「習熟度」は、前者の文言に該当します。
民間教育は公教育と異なり「顧客のニーズ」を汲み取った上で教育サービスを提供していく必要性が求められるため、「個性に応じる」という役割は重要な視点となります。
「顧客のニーズ」という視点!
前者にもかかわってくる「顧客のニーズ」ですが、これは後者の文言にも該当します。
民間教育である塾講師は企業という性質上、まず何より「顧客のニーズ」を汲み取っていく必要性が求められてきますが、では、この場合の「ニーズ」とは何でしょうか?
筆者はこのように考えています。
- 定期テストで点を上げたい
- 苦手科目を克服したい
- 志望校に合格したい
これらを要約すると「夢や目標の実現」になるのではないかと考えていますが、このように考えてみると「塾講師の役割」とは「前者の文言である一人ひとりの個性に応じつつ、後者の文言である夢や目標の実現に向けて教育サービスを提供する」、これが「塾講師の役割」になると捉えています。
両者の役割の違いについて
さて、ここまで「学校教師と塾講師の役割」について見てきました。
最後に、この記事のタイトルにもなっている両者の違いについて見ていきましょう。
ただ注意していただきたい点として、そもそも学校教師と塾講師の役割ですが歴史的背景を見ても、その役割については本質的に異なる性質であると考えています。
しかし、近年では「学校の補習的な役割」を担いながら学習塾も運営されているため、その関係性も対立から共存という関係にシフトしているように感じています。
なので、この点に注意していただきながら両者の違いについて見ていきましょう。
教育のアプローチが異なる
学校教師・塾講師ともに、働いている教育者の思いは変わらないと感じています。
成長して欲しい!
ただ「成長に向けたゴール」が両者の間では異なるものであると感じており、その中でも、目標の設定方法や目標達成に向けたアプローチが異なるものであると考えています。
まずは学校教師についてです。
こちらは先ほど申し上げましたが、教育基本法や学習指導要領といった資料によって既に「育てたい子ども像」がある程度定められている状況となっています。
なので、教育的アプローチも「自立した社会人に向けて必要な知識や技能」を教えることが基本となるため、あらかじめ計算や読み書きを指導することが確定しています。
ベテラン教師になってくると「子どもたちの個性」を読み取りつつ、集団授業でも柔軟性のある授業を展開することができるかもしれませんが、基本的なスタンスは自立した社会人を育てるべく、必要な知識や技能を一律に大勢の子どもたちに指導していくことが重要な役割となるため、上記の目標設定やアプローチが基本となるように感じています。
次に塾講師についてです。
こちらは民間企業ということもあり、まず何より顧客である子どもたちの「教育的ニーズ」を汲み取りながら目標設定やアプローチを考えていくことが重要となります。
ですので、塾講師は学校教師と同様に授業を行っていくわけですが
- 定期テストで点をとるため
- 苦手科目を克服するため
- 志望校に合格するため
このような「教育的ニーズ」を読み取るため、先ほど申し上げた傾聴・共感の姿勢を心掛けながら、それに応じて「育てたい子ども像」を形成していくことになります。
確かに両者の役割は
違ったものになるね。
話をまとめますと両者の違いは教育的アプローチの違いにあり、学校教師は自立した社会人を育てるため既に定められた内容を教えなければならず、塾講師は子どもたち一人ひとりの夢や目標に応じた内容を教えなければならないということになるでしょう。
転職の際は教育観の形成を
いかがだったでしょうか。
今までの記事に比べると、かなり個人的な価値観を含んだ内容だったと思います。
ただ筆者自身このような価値観、いわゆる教育観を形成することができたからこそ、自分に合う教育とは何ぞ、どうすれば自身のキャリアを活かしながら子どもたちの成長に寄り添うことができるのか、これらを見つけることができたと考えています。
- サポート役が得意
- 個人との対話が得意
これが筆者のこれまでのキャリアを通して見出してきた「得意とする役割」です。
こうした役割を導き出すことができたからこそ、今の教育業界の転職者に向けたサポーターとして活動することができているのではないでしょうか。
教育業界に興味のある転職者も同様に、自身の得意とする役割があると思います。
もしも現在の仕事で悩まれていて教育業界の仕事に携わってみたいと考えている方がいらっしゃいましたら、ぜひ上記の役割の違いを参考にしながら考えてみてください。
最初はよく分からないかもしれませんが、少しずつ繰り返していくことで必ず自分に合った教育観を導き出すことができますし、それによってみなさんが「輝く教育者」になることができると思っています。
では、今回はここまで。
ColorfulEducation運営者:たなかくん